ベントレー アルナージ&アズール '07 Vol.1 [ベントレー]
【ベントレー アルナージ&アズール】
ベントレー・アルナージは、まだベントレーが旧ロールス・ロイス社の傘下であった1998年にロールス・ロイスのシルバーセラフの姉妹車として誕生したベントレーのフラッグシップモデルである。現在ではアルナージT(507ps)とアルナージR(457ps)をラインナップする。アズールはアルナージをベースとした4シーターのオープンモデルである。
以前でさえ立派な化粧箱に入っていたアルナージのカタログは、マイバッハの本革カタログに影響を受けたのか、2006年モデルからは本革製の豪華なケースに収められるようになった。
カタログは以下の4冊から構成される。
・BENTLEY TRAVEL IN ANOTHER WORLD(46ページ)
・BENTLEY THE JOURNEY SO FAR(28ページ)
・ARNAGE AND AZURE COLOUR AND TRIM GUIDE(12ページ)
・MULLINER FEATURES AND SPECIFICATION GUIDE(24ページ)
尚、このカタログは日本語で書かれた日本仕様のものであるが印刷・製本は英国でされている。
○本革のカタログ収納ケース
本革は実際のベントレーに使用されているものと同じもの。ベントレーのエンブレムである
"ウィングドB"のエンボス加工と白いステッチが施された本革ケースに、超高級車のカタログとしての格調高さを感じる。
○現在のベントレーのモデル構成
現在のベントレーのモデルは大別すると2つに分けることができる。
一つはアルナージやアズール、ブルックランズといった旧ロールス・ベントレーからの流れを汲む伝統のV8OHV、6.75リッターエンジンを積む3000万円台からのモデル。
一つはコンチネンタルGT、コンチネンタルGTC、フライングスパーといった、VWのフェートンやアウディのA8と共通のプラットフォームを使って作られた2000万円台のモデル。エンジンはVWグループのW12気筒エンジンを積む。
動力性能やスペックだけを見ると、VWの最新技術が投入されているだけあって、コンチネンタルGTシリーズの方が遥かに上だが、現在でも大半の部分がハンドメイドで作られるアルナージ系のモデルは、旧来のロールス・ベントレーが持っていた独特の世界観が残り、今、なお熱心なファンを魅了している。
【BENTLEY TRAVEL IN ANOTHER WORLD】
別世界への旅行。
直訳するとそうなる。ベントレーに乗ると、今までの世界も、いつもと違ったものに見える。ベントレーを手にすると言う事は、クルマだけを手に入れることではなく、そのクルマに相応しいライフスタイルを手に入れるということであり、その世界は今までとは別世界ということなのかもしれない。
「BENTLEY TRAVEL IN ANOTHER WORLD」は全部で46ページ。主にアルナージやアズールのエクステリア、インテリアなどが紹介されている。カタログはハードカバーに覆われ高級感があり、どちらかというと写真集に近いクオリティーだ。
・アルナージについて
1998年にロールス・ロイスのシルバーセラフの姉妹車として誕生したベントレー・アルナージは発表当初、BMW製のV8エンジンをベースにコスワースが手を加え、最高出力353psを発生する4.4リッターツインターボ付きV8エンジンを搭載していた。(このアルナージは「アルナージ グリーンレーベル」と呼ばれる)
これは当時ロールスロイス社がBMWと提携関係にあり、新型車にはBMWから供給されるエンジンが搭載されることが決まっていたからである。姉妹車のシルバーセラフも326psを発生するBMW製の5.4リッターV型12気筒エンジンを搭載していた。
しかし、ロールス・ロイス社を巡って、BMWとVWによる泥沼の買収劇があり、ロールスロイスブランドはBMWが、ベントレーブランドはVWが所有することで決着すると、VWはベントレーのブランド力アップを狙って、旧来のベントレーに搭載されていたV8OHVターボの6.75リッターエンジンを復活させ、アルナージに搭載した。このアルナージは「アルナージ レッドレーベル」と呼ばれ、最高出力405psを発生した。BMW製のエンジンを積む「グリーンレーベル」もしばらくは併売された。
現在のアルナージのラインナップは2002年に登場したハイパフォーマンスモデルのアルナージTと、同じく2002年に登場したフォーマル志向のモデル、アルナージRの2本立てである。
・アルナージT:フロント
力強さとフォーマル感が同居するアルナージのボディ。ヘッドライトは2005年モデルから丸型デザインとなった。
2002年に登場したアルナージTは、それまでアルナージ レッドレーベルに搭載されていた伝統の6.75リッターV8エンジンを徹底的に改良した。ギャレット製のターボチャージャーはそれまでのギャレットT4から慣性質量の小さなギャレットT3に変更され、シングルターボからツインターボに変更された。これにより405psだった最高出力は457psへアップした。その他にもバルブの軽量化やヘッドチューンで、それまでのエンジンと比べて、総計50%が新設計、のこりの部分の80%が見直しを行った。
2007年モデルになると更なる改良が行われ、ギャレット製のターボチャージャーは三菱製のものに変更、排気量も6,747ccから6,761ccとわずかばかりアップして、とうとう最高出力は507psとなる。
・アルナージT:リア
リアビューも優雅な印象。2007年モデルからは、それまでのGM製の4L80-E型の4速ATからZF製の6速ATに変更され、ドライバビリティーが向上している。またエクステリアもフロントグリルやモール類などを中心にマイナーチェンジされた。アルナージTには高剛性ロードスプリングや改造ダンパー付きサスペンションなどの設定もあるが、日本及び、インド、中国、タイ仕様では選択不可となっている。
・アルナージT:インテリア
アルナージには豊富なトリムやインテリアカラーが揃えられているが、アルナージTは一般的なウッドトリムはもちろんのこと、専用オプションとしてエンジンチューンドアルミトリムやカーボンファイバートリム、さらにはスモーク加工されたエンジンチューンドアルミトリムまで選ぶことが出来る。写真はエンジンチューンドアルミトリム。
・アルナージT:インテリア
菱形のキルティング加工がなされたレザーシートやエンジンスタータボタンといったアルナージTのみの専用装備がスポーツマインドを掻き立てる。シートの"ウィングドB"エンブレムはアルナージTには標準で、アルナージRにはオプションで設定されるが、それぞれ装着位置が異なり、アルナージTではシート背面に、アルナージRではヘッドレストとなる。
・アルナージR:フロント
2002年に登場したアルナージRはアルナージ レッドレーベルの後継モデルという位置づけであり、"ウイングドB"のエンブレムもレッドレーベル同様、赤色である。(アルナージTは黒色)
エンジンはレッドレーベルに搭載されていたシングルターボのV8エンジンではなく、アルナージTに搭載された6.75リッター、ツインターボのV8エンジンをデチューンして搭載しており、最高出力は405psを発生する。2007年モデルになると、アルナージT同様、ギャレット製のターボチャージャーを三菱製のものに変更するなどして、エンジンの改良が行われ、最高出力は405psから457psにアップ、改良前のアルナージTと同等のスペックを得た。またトランスミッションもGM製の4速ATからZF製の6速ATに変更になった。
外観上ではフロントスポイラーのデザインやエグゾースト等がアルナージTと異なる。ヘッドライトは2005年モデルから丸型デザインとなった。
・アルナージR:リア
アルナージ及びロールス・ロイス シルバーセラフをデザインしたのは旧ロールスロイス社のチーフデザイナー、グラアム・ハル氏。それまでのロールス・ベントレーの伝統を受け継ぎつつも、丸みを帯びた現代的なデザインが特徴だ。
アルナージRにはデュオトーンと呼ばれるツートーンペイントも用意されている。写真はフォウンテンブルーとメテオールの組合せ。他にもモノトーンはもとより、旧モデルのカラー、そしてカラーサンプルを送れば、顧客の希望通りのカラーを特別注文することも可能である。
・アルナージR:インテリア
ベントレーならではのクラフトマンシップが息づくインテリア。インテリアカラーは標準で27色用意されているが、望めば旧モデルのカラーや顧客の希望通りのカラーを特別注文することも可能である。
初期のアルナージのシートは、英国王室御用達に指定され、キングエドワード7世の載冠式で使われた馬車のシート等を手がけたコノリー社の最高級皮革、コノリーレザーが採用されていたが、同社が自動車事業から撤退した為、2002年8月以降のモデルではサプライヤーが変更になっている。これ以降は特定のサプライヤーには限定せず、ベントレーの求める品質水準に達したものを採用している。
・アルナージRL:インテリア
アルナージRにはロングホイールベース版のアルナージRLも用意される。アルナージRと比べて、フロントコンパートメントは50mm、リアコンパートメントは200mm拡大されている。リアシートのアームレストには、ボトルクーラーが装備されている。写真のリアシートは2座のものだが、3座シートを選択することも出来る。
・アズール:フロント
アズールはアルナージをベースとした4シーターのコンバーチブルモデルである。2005年のロサンゼルスモーターショーにおいて「アルナージ・ドロップヘッドクーペ」として発表されたが、市販化に伴い、アズールの名前が与えられた。
アズール(Azure)のネーミングは、南フランスの高級リゾート地、コート・ダジュール(Cote d'Azur)から由来している。フランス人に言わせると、発音はダジュールではなく、ダズュールが正しいらしい。カタログには、晴れた日の海岸線を颯爽と走るアズールが載っているが、このクルマはこういう乗り方をするのが、一番似合うのだろう。
・アズール:インテリア
至福のオープンエアと共に格調高い調度品に包まれたようなインテリア。シートはヘッドレスト一体型のものとなっている。ルーフは3層構造の電動キャンバストップを採用しており専用スペースに格納される為に、ルーフの開閉がトランクスペースに影響することはない。トランクは235ℓと大容量。ゴルフバック2人分と旅行カバンも十分、収納できる。
・アズール
全体的なデザインは1995年から2003年まで生産されていた先代アズールのイメージを踏襲しているが、現行モデルではやや丸みを帯び、現代的になった。レーザー加工で仕上げられたステンレスグリル上に鎮座するマスコットの"フライングB"はグリル内に収納も可能。マスコットでないバッチである"ウィングドB"も選択できる。搭載されるエンジンはアルナージに搭載されるのと同じツインターボの6.75リッター、V8エンジンで最高出力457psを発生する。
・ベントレー・マリナー
カタログには顧客の望む仕様をカスタムメイドで制作してくれるマリナー部門の紹介もされている。マリナーの歴史は1700年代にまで遡る。元々は顧客の要望に応じた馬車をオーダーメイドで制作していたが、時代と共に自動車車体も製作するようになり、1959年には旧ロールス・ロイス社に買収され、現在ではベントレーの車体製作部門として、特別注文にも対応している。
シネマシステム、ドリンクキャビネット、カスタムメイドのカラー、防弾仕様、ホイールベースを延長したリムジン仕様…仮にあなたが紡績工場の社長なら、自社で造ったツイードをインテリアに組込むことさえも可能だ。
【MULLINER FEATURES AND SPECIFICATION GUIDE】
「MULLINER FEATURES AND SPECIFICATION GUIDE」は全部で24ページ。
アルナージやアズールの為に用意された豊富なマリナーのオプションが紹介されている。
マリナーは今から2世紀前の1760年にコーチビルダー(馬車製作工房)として創業して以来、様々な顧客の要望にオーダーメイドで応えてきたが、時代が馬車から自動車に変わり、ベントレーの車体製作部門となった現在でも、代々受け継がれてきた伝統の精神は不変であり、顧客からの難しい要求や、変わったものであっても、それが可能であれば、マリナーが実現してくれる。
・エクステリア
クローム仕上げのドアミラーキャップやグリルに収納可能な「フライングB」のマスコット、車体エクステリアに描かれるファインラインやツーピース「スター」のアルミホイールなどが掲載されている。リアコンパートメントに電動サンルーフを装備出来るオプションもあるが、これは日本では選択不可となっている。
・ホイール/エキゾースト
左右2本出しエキゾーストテールパイプや豊富なアルミホイールが紹介されている。
ホイールは上段左から右に向かって、12本スポークアルミホイール、クロームメッキ仕上げの12本スポークアルミホイール、7本スポークアルミホイール、クロームメッキ仕上げの7本スポークアルミホイール、6本ツインスポークのディスクアルミホイール、クロームメッキ仕上げの6本ツインスポークのディスクアルミホイール、クロームメッキ仕上げの6本スポークのアルミホイール、5本スポークのツーピース「ブレード」スポーツアルミホイールとなっている。
・インテリア
ウッドドアパネルやコンパニオンミラー、ツートーンレザーのマルチファンクションステアリングやコントラストパイピングなどが紹介されている。カーペットカラーやシートカラー、ラムウール製ラグのカラーは顧客のオーダーメイド注文に対応している。
・オーディオビジュアルシステム
顧客が望めば、エンターテイメントやオフィス機能も搭載することができる。シート背面のLCDスクリーン、または天井に収納できる電動格納式LCDスクリーンを使ったDVDシステムや赤外線キーボードを用いたオフィスコンピュータシステムも用意されるが、日本では選択不可となっている。日本で選択できないオプションがカタログに載っているのは、本国版カタログをそのまま日本語版に訳した為だろう。
・プライベート
前席と後席を隔てるスリム型ディビジョンやリアコンパートメントのシルク製カーテン、カクテルコンパートメント、新聞や雑誌などのドキュメント収納スペース、ボトルクーラーやピクニックテーブルなども用意されている。
・パッケージオプション
アルナージT、アルナージR、アルナージRLにはそれぞれ、魅力的なパッケージオプションも用意されている。
アルナージTにはドリルドアロイペダルや左右2本出しエキゾーストテールパイプ等を組合せた「スポーツコンビネーション」、アルナージRにはウッドドアパネルやウッドとレザーのステアリングホイール等を組合せた「クラシックコンビネーション」、アルナージRLにはカクテルキャビネットやボトルクーラー等を組合せた「エンターテイメントコンビネーション」等が用意される。
○アルナージに想う
ベントレーは1931年にロールスロイスに買収されてから、2002年まで同じ道を歩み続けてきた。買収後、しばらくはロールス・ロイスのバッチを変えた姉妹車といった感じだったが、1980年代になるとベントレーのみにターボモデルが登場して、徐々に差別化が図られてきた。
よくショーファーのロールス・ロイス、ドライバーズカーのベントレーと言われるが、ロールスはドライバーズカーの性格も有しており、私は、ベントレーはドライバーズカーというよりもスポーツセダンという位置づけだと思う。
富裕層の中には、ショーファー用にはダークカラーを、オーナードライブ用にはライトカラーのロールスを所有するオーナーも多かった。例えばシルバーセラフが紳士の為のドライバーズカーなら、ロングホイール版のパークウォードはショーファーといったところか。
現行のアルナージは、1998年に登場した最後のクルー工場製のロールスロイス・シルバーセラフの姉妹車である。新生ロールスロイスはグッドウッドで生産されているが、クルー工場で作られたものまでがロールスという人にとっては、ベントレー・アルナージは新車で買える最後の「ロールス」といっていいかもしれない。
シルバーセラフはBMW製のV12気筒エンジンを装備していたが、アルナージは、今でも旧ロールス/ベントレー伝統のV8OHVエンジンを搭載していて、何とも「ロールス」濃度が濃い。いつまでもVWがこのV8を残しておくかはわからないので、欲しい人は今のうちに買っておいたほうが良いだろう。
そして買うなら個人的にはアルナージRを薦めたいと思う。
シルバーセラフの生産が終了した後、アルナージ・レッドレーベルはアルナージRになったが、サスペンションはスポーツ志向より、ジェントル志向になりソフトになった。本当はベントレーはアルナージRをレッドレーベルではなく、シルバーセラフの後継車にしたかったのではないか?
「R」にはロールスの意味が込められているのではないか?
最後のクルーのロールスが少しでも長く生産されるようにと…
◆◆◆◆◆◆◆◆◆データベース◆◆◆◆◆◆◆◆◆
【ベントレー アルナージ&アズール '07】
■ARNAGE T
車両形式:ABA-BLF
乗車定員:5名
エンジン形式:L410MT
エンジン種類:V型8気筒OHV ツインインタークーラー ツインターボ
総排気量(cc):6,761
ボアx ストローク(mm):104.1×99.1
最高出力PS/rpm:507/4,200
最大トルク kg・m/rpm:102/3,200
圧縮比:7.8:1
エンジンマネージメント:ボッシュ
ミッション形式:電子制御6速AT(フロアシフト)
ホイール:8J×19
■ARNAGE R
車両形式:ABA-BLC
乗車定員:5名
エンジン形式:L410MT
エンジン種類:V型8気筒OHV ツインインタークーラー ツインターボ
総排気量(cc):6,761
ボアx ストローク(mm):104.1×99.1
最高出力PS/rpm:457/4,100
最大トルク kg・m/rpm:89.2/1,800
圧縮比:7.8:1
エンジンマネージメント:ボッシュ
ミッション形式:電子制御6速AT(フロアシフト)
ホイール:8J×18
■ARNAGE RL
車両形式:ABA-BLE
乗車定員:4名(5名)
エンジン形式:L410MT
エンジン種類:V型8気筒OHV ツインインタークーラー ツインターボ
総排気量(cc):6,761
ボアx ストローク(mm):104.1×99.1
最高出力PS/rpm:457/4,100
最大トルク kg・m/rpm:89.2/1,800
圧縮比:7.8:1
エンジンマネージメント:ボッシュ
ミッション形式:電子制御6速AT(フロアシフト)
ホイール:8J×18
■AZURE
車両形式:ABA-BDC
乗車定員:4名
エンジン形式:L410MT
エンジン種類:V型8気筒OHV ツインインタークーラー ツインターボ
総排気量(cc):6,761
ボアx ストローク(mm):104.1×99.1
最高出力PS/rpm:457/4,100
最大トルク kg・m/rpm:89.2/1,800
圧縮比:7.8:1
エンジンマネージメント:ボッシュ
ミッション形式:電子制御6速AT(フロアシフト)
ホイール:8J×19
参照:ベントレー アルナージ&アズール カタログ(2007年版)
・BENTLEY TRAVEL IN ANOTHER WORLD
・MULLINER FEATURES AND SPECIFICATION GUIDE
「BENTLEY THE JOURNEY SO FAR」及び「ARNAGE AND AZURE COLOUR AND TRIM GUIDE」については【ベントレー アルナージ&アズール '07 Vol.2】へと続く。
ベントレー・アルナージは、まだベントレーが旧ロールス・ロイス社の傘下であった1998年にロールス・ロイスのシルバーセラフの姉妹車として誕生したベントレーのフラッグシップモデルである。現在ではアルナージT(507ps)とアルナージR(457ps)をラインナップする。アズールはアルナージをベースとした4シーターのオープンモデルである。
以前でさえ立派な化粧箱に入っていたアルナージのカタログは、マイバッハの本革カタログに影響を受けたのか、2006年モデルからは本革製の豪華なケースに収められるようになった。
カタログは以下の4冊から構成される。
・BENTLEY TRAVEL IN ANOTHER WORLD(46ページ)
・BENTLEY THE JOURNEY SO FAR(28ページ)
・ARNAGE AND AZURE COLOUR AND TRIM GUIDE(12ページ)
・MULLINER FEATURES AND SPECIFICATION GUIDE(24ページ)
尚、このカタログは日本語で書かれた日本仕様のものであるが印刷・製本は英国でされている。
○本革のカタログ収納ケース
本革は実際のベントレーに使用されているものと同じもの。ベントレーのエンブレムである
"ウィングドB"のエンボス加工と白いステッチが施された本革ケースに、超高級車のカタログとしての格調高さを感じる。
○現在のベントレーのモデル構成
現在のベントレーのモデルは大別すると2つに分けることができる。
一つはアルナージやアズール、ブルックランズといった旧ロールス・ベントレーからの流れを汲む伝統のV8OHV、6.75リッターエンジンを積む3000万円台からのモデル。
一つはコンチネンタルGT、コンチネンタルGTC、フライングスパーといった、VWのフェートンやアウディのA8と共通のプラットフォームを使って作られた2000万円台のモデル。エンジンはVWグループのW12気筒エンジンを積む。
動力性能やスペックだけを見ると、VWの最新技術が投入されているだけあって、コンチネンタルGTシリーズの方が遥かに上だが、現在でも大半の部分がハンドメイドで作られるアルナージ系のモデルは、旧来のロールス・ベントレーが持っていた独特の世界観が残り、今、なお熱心なファンを魅了している。
【BENTLEY TRAVEL IN ANOTHER WORLD】
別世界への旅行。
直訳するとそうなる。ベントレーに乗ると、今までの世界も、いつもと違ったものに見える。ベントレーを手にすると言う事は、クルマだけを手に入れることではなく、そのクルマに相応しいライフスタイルを手に入れるということであり、その世界は今までとは別世界ということなのかもしれない。
「BENTLEY TRAVEL IN ANOTHER WORLD」は全部で46ページ。主にアルナージやアズールのエクステリア、インテリアなどが紹介されている。カタログはハードカバーに覆われ高級感があり、どちらかというと写真集に近いクオリティーだ。
・アルナージについて
1998年にロールス・ロイスのシルバーセラフの姉妹車として誕生したベントレー・アルナージは発表当初、BMW製のV8エンジンをベースにコスワースが手を加え、最高出力353psを発生する4.4リッターツインターボ付きV8エンジンを搭載していた。(このアルナージは「アルナージ グリーンレーベル」と呼ばれる)
これは当時ロールスロイス社がBMWと提携関係にあり、新型車にはBMWから供給されるエンジンが搭載されることが決まっていたからである。姉妹車のシルバーセラフも326psを発生するBMW製の5.4リッターV型12気筒エンジンを搭載していた。
しかし、ロールス・ロイス社を巡って、BMWとVWによる泥沼の買収劇があり、ロールスロイスブランドはBMWが、ベントレーブランドはVWが所有することで決着すると、VWはベントレーのブランド力アップを狙って、旧来のベントレーに搭載されていたV8OHVターボの6.75リッターエンジンを復活させ、アルナージに搭載した。このアルナージは「アルナージ レッドレーベル」と呼ばれ、最高出力405psを発生した。BMW製のエンジンを積む「グリーンレーベル」もしばらくは併売された。
現在のアルナージのラインナップは2002年に登場したハイパフォーマンスモデルのアルナージTと、同じく2002年に登場したフォーマル志向のモデル、アルナージRの2本立てである。
・アルナージT:フロント
力強さとフォーマル感が同居するアルナージのボディ。ヘッドライトは2005年モデルから丸型デザインとなった。
2002年に登場したアルナージTは、それまでアルナージ レッドレーベルに搭載されていた伝統の6.75リッターV8エンジンを徹底的に改良した。ギャレット製のターボチャージャーはそれまでのギャレットT4から慣性質量の小さなギャレットT3に変更され、シングルターボからツインターボに変更された。これにより405psだった最高出力は457psへアップした。その他にもバルブの軽量化やヘッドチューンで、それまでのエンジンと比べて、総計50%が新設計、のこりの部分の80%が見直しを行った。
2007年モデルになると更なる改良が行われ、ギャレット製のターボチャージャーは三菱製のものに変更、排気量も6,747ccから6,761ccとわずかばかりアップして、とうとう最高出力は507psとなる。
・アルナージT:リア
リアビューも優雅な印象。2007年モデルからは、それまでのGM製の4L80-E型の4速ATからZF製の6速ATに変更され、ドライバビリティーが向上している。またエクステリアもフロントグリルやモール類などを中心にマイナーチェンジされた。アルナージTには高剛性ロードスプリングや改造ダンパー付きサスペンションなどの設定もあるが、日本及び、インド、中国、タイ仕様では選択不可となっている。
・アルナージT:インテリア
アルナージには豊富なトリムやインテリアカラーが揃えられているが、アルナージTは一般的なウッドトリムはもちろんのこと、専用オプションとしてエンジンチューンドアルミトリムやカーボンファイバートリム、さらにはスモーク加工されたエンジンチューンドアルミトリムまで選ぶことが出来る。写真はエンジンチューンドアルミトリム。
・アルナージT:インテリア
菱形のキルティング加工がなされたレザーシートやエンジンスタータボタンといったアルナージTのみの専用装備がスポーツマインドを掻き立てる。シートの"ウィングドB"エンブレムはアルナージTには標準で、アルナージRにはオプションで設定されるが、それぞれ装着位置が異なり、アルナージTではシート背面に、アルナージRではヘッドレストとなる。
・アルナージR:フロント
2002年に登場したアルナージRはアルナージ レッドレーベルの後継モデルという位置づけであり、"ウイングドB"のエンブレムもレッドレーベル同様、赤色である。(アルナージTは黒色)
エンジンはレッドレーベルに搭載されていたシングルターボのV8エンジンではなく、アルナージTに搭載された6.75リッター、ツインターボのV8エンジンをデチューンして搭載しており、最高出力は405psを発生する。2007年モデルになると、アルナージT同様、ギャレット製のターボチャージャーを三菱製のものに変更するなどして、エンジンの改良が行われ、最高出力は405psから457psにアップ、改良前のアルナージTと同等のスペックを得た。またトランスミッションもGM製の4速ATからZF製の6速ATに変更になった。
外観上ではフロントスポイラーのデザインやエグゾースト等がアルナージTと異なる。ヘッドライトは2005年モデルから丸型デザインとなった。
・アルナージR:リア
アルナージ及びロールス・ロイス シルバーセラフをデザインしたのは旧ロールスロイス社のチーフデザイナー、グラアム・ハル氏。それまでのロールス・ベントレーの伝統を受け継ぎつつも、丸みを帯びた現代的なデザインが特徴だ。
アルナージRにはデュオトーンと呼ばれるツートーンペイントも用意されている。写真はフォウンテンブルーとメテオールの組合せ。他にもモノトーンはもとより、旧モデルのカラー、そしてカラーサンプルを送れば、顧客の希望通りのカラーを特別注文することも可能である。
・アルナージR:インテリア
ベントレーならではのクラフトマンシップが息づくインテリア。インテリアカラーは標準で27色用意されているが、望めば旧モデルのカラーや顧客の希望通りのカラーを特別注文することも可能である。
初期のアルナージのシートは、英国王室御用達に指定され、キングエドワード7世の載冠式で使われた馬車のシート等を手がけたコノリー社の最高級皮革、コノリーレザーが採用されていたが、同社が自動車事業から撤退した為、2002年8月以降のモデルではサプライヤーが変更になっている。これ以降は特定のサプライヤーには限定せず、ベントレーの求める品質水準に達したものを採用している。
・アルナージRL:インテリア
アルナージRにはロングホイールベース版のアルナージRLも用意される。アルナージRと比べて、フロントコンパートメントは50mm、リアコンパートメントは200mm拡大されている。リアシートのアームレストには、ボトルクーラーが装備されている。写真のリアシートは2座のものだが、3座シートを選択することも出来る。
・アズール:フロント
アズールはアルナージをベースとした4シーターのコンバーチブルモデルである。2005年のロサンゼルスモーターショーにおいて「アルナージ・ドロップヘッドクーペ」として発表されたが、市販化に伴い、アズールの名前が与えられた。
アズール(Azure)のネーミングは、南フランスの高級リゾート地、コート・ダジュール(Cote d'Azur)から由来している。フランス人に言わせると、発音はダジュールではなく、ダズュールが正しいらしい。カタログには、晴れた日の海岸線を颯爽と走るアズールが載っているが、このクルマはこういう乗り方をするのが、一番似合うのだろう。
・アズール:インテリア
至福のオープンエアと共に格調高い調度品に包まれたようなインテリア。シートはヘッドレスト一体型のものとなっている。ルーフは3層構造の電動キャンバストップを採用しており専用スペースに格納される為に、ルーフの開閉がトランクスペースに影響することはない。トランクは235ℓと大容量。ゴルフバック2人分と旅行カバンも十分、収納できる。
・アズール
全体的なデザインは1995年から2003年まで生産されていた先代アズールのイメージを踏襲しているが、現行モデルではやや丸みを帯び、現代的になった。レーザー加工で仕上げられたステンレスグリル上に鎮座するマスコットの"フライングB"はグリル内に収納も可能。マスコットでないバッチである"ウィングドB"も選択できる。搭載されるエンジンはアルナージに搭載されるのと同じツインターボの6.75リッター、V8エンジンで最高出力457psを発生する。
・ベントレー・マリナー
カタログには顧客の望む仕様をカスタムメイドで制作してくれるマリナー部門の紹介もされている。マリナーの歴史は1700年代にまで遡る。元々は顧客の要望に応じた馬車をオーダーメイドで制作していたが、時代と共に自動車車体も製作するようになり、1959年には旧ロールス・ロイス社に買収され、現在ではベントレーの車体製作部門として、特別注文にも対応している。
シネマシステム、ドリンクキャビネット、カスタムメイドのカラー、防弾仕様、ホイールベースを延長したリムジン仕様…仮にあなたが紡績工場の社長なら、自社で造ったツイードをインテリアに組込むことさえも可能だ。
【MULLINER FEATURES AND SPECIFICATION GUIDE】
「MULLINER FEATURES AND SPECIFICATION GUIDE」は全部で24ページ。
アルナージやアズールの為に用意された豊富なマリナーのオプションが紹介されている。
マリナーは今から2世紀前の1760年にコーチビルダー(馬車製作工房)として創業して以来、様々な顧客の要望にオーダーメイドで応えてきたが、時代が馬車から自動車に変わり、ベントレーの車体製作部門となった現在でも、代々受け継がれてきた伝統の精神は不変であり、顧客からの難しい要求や、変わったものであっても、それが可能であれば、マリナーが実現してくれる。
・エクステリア
クローム仕上げのドアミラーキャップやグリルに収納可能な「フライングB」のマスコット、車体エクステリアに描かれるファインラインやツーピース「スター」のアルミホイールなどが掲載されている。リアコンパートメントに電動サンルーフを装備出来るオプションもあるが、これは日本では選択不可となっている。
・ホイール/エキゾースト
左右2本出しエキゾーストテールパイプや豊富なアルミホイールが紹介されている。
ホイールは上段左から右に向かって、12本スポークアルミホイール、クロームメッキ仕上げの12本スポークアルミホイール、7本スポークアルミホイール、クロームメッキ仕上げの7本スポークアルミホイール、6本ツインスポークのディスクアルミホイール、クロームメッキ仕上げの6本ツインスポークのディスクアルミホイール、クロームメッキ仕上げの6本スポークのアルミホイール、5本スポークのツーピース「ブレード」スポーツアルミホイールとなっている。
・インテリア
ウッドドアパネルやコンパニオンミラー、ツートーンレザーのマルチファンクションステアリングやコントラストパイピングなどが紹介されている。カーペットカラーやシートカラー、ラムウール製ラグのカラーは顧客のオーダーメイド注文に対応している。
・オーディオビジュアルシステム
顧客が望めば、エンターテイメントやオフィス機能も搭載することができる。シート背面のLCDスクリーン、または天井に収納できる電動格納式LCDスクリーンを使ったDVDシステムや赤外線キーボードを用いたオフィスコンピュータシステムも用意されるが、日本では選択不可となっている。日本で選択できないオプションがカタログに載っているのは、本国版カタログをそのまま日本語版に訳した為だろう。
・プライベート
前席と後席を隔てるスリム型ディビジョンやリアコンパートメントのシルク製カーテン、カクテルコンパートメント、新聞や雑誌などのドキュメント収納スペース、ボトルクーラーやピクニックテーブルなども用意されている。
・パッケージオプション
アルナージT、アルナージR、アルナージRLにはそれぞれ、魅力的なパッケージオプションも用意されている。
アルナージTにはドリルドアロイペダルや左右2本出しエキゾーストテールパイプ等を組合せた「スポーツコンビネーション」、アルナージRにはウッドドアパネルやウッドとレザーのステアリングホイール等を組合せた「クラシックコンビネーション」、アルナージRLにはカクテルキャビネットやボトルクーラー等を組合せた「エンターテイメントコンビネーション」等が用意される。
○アルナージに想う
ベントレーは1931年にロールスロイスに買収されてから、2002年まで同じ道を歩み続けてきた。買収後、しばらくはロールス・ロイスのバッチを変えた姉妹車といった感じだったが、1980年代になるとベントレーのみにターボモデルが登場して、徐々に差別化が図られてきた。
よくショーファーのロールス・ロイス、ドライバーズカーのベントレーと言われるが、ロールスはドライバーズカーの性格も有しており、私は、ベントレーはドライバーズカーというよりもスポーツセダンという位置づけだと思う。
富裕層の中には、ショーファー用にはダークカラーを、オーナードライブ用にはライトカラーのロールスを所有するオーナーも多かった。例えばシルバーセラフが紳士の為のドライバーズカーなら、ロングホイール版のパークウォードはショーファーといったところか。
現行のアルナージは、1998年に登場した最後のクルー工場製のロールスロイス・シルバーセラフの姉妹車である。新生ロールスロイスはグッドウッドで生産されているが、クルー工場で作られたものまでがロールスという人にとっては、ベントレー・アルナージは新車で買える最後の「ロールス」といっていいかもしれない。
シルバーセラフはBMW製のV12気筒エンジンを装備していたが、アルナージは、今でも旧ロールス/ベントレー伝統のV8OHVエンジンを搭載していて、何とも「ロールス」濃度が濃い。いつまでもVWがこのV8を残しておくかはわからないので、欲しい人は今のうちに買っておいたほうが良いだろう。
そして買うなら個人的にはアルナージRを薦めたいと思う。
シルバーセラフの生産が終了した後、アルナージ・レッドレーベルはアルナージRになったが、サスペンションはスポーツ志向より、ジェントル志向になりソフトになった。本当はベントレーはアルナージRをレッドレーベルではなく、シルバーセラフの後継車にしたかったのではないか?
「R」にはロールスの意味が込められているのではないか?
最後のクルーのロールスが少しでも長く生産されるようにと…
◆◆◆◆◆◆◆◆◆データベース◆◆◆◆◆◆◆◆◆
【ベントレー アルナージ&アズール '07】
■ARNAGE T
車両形式:ABA-BLF
乗車定員:5名
エンジン形式:L410MT
エンジン種類:V型8気筒OHV ツインインタークーラー ツインターボ
総排気量(cc):6,761
ボアx ストローク(mm):104.1×99.1
最高出力PS/rpm:507/4,200
最大トルク kg・m/rpm:102/3,200
圧縮比:7.8:1
エンジンマネージメント:ボッシュ
ミッション形式:電子制御6速AT(フロアシフト)
ホイール:8J×19
■ARNAGE R
車両形式:ABA-BLC
乗車定員:5名
エンジン形式:L410MT
エンジン種類:V型8気筒OHV ツインインタークーラー ツインターボ
総排気量(cc):6,761
ボアx ストローク(mm):104.1×99.1
最高出力PS/rpm:457/4,100
最大トルク kg・m/rpm:89.2/1,800
圧縮比:7.8:1
エンジンマネージメント:ボッシュ
ミッション形式:電子制御6速AT(フロアシフト)
ホイール:8J×18
■ARNAGE RL
車両形式:ABA-BLE
乗車定員:4名(5名)
エンジン形式:L410MT
エンジン種類:V型8気筒OHV ツインインタークーラー ツインターボ
総排気量(cc):6,761
ボアx ストローク(mm):104.1×99.1
最高出力PS/rpm:457/4,100
最大トルク kg・m/rpm:89.2/1,800
圧縮比:7.8:1
エンジンマネージメント:ボッシュ
ミッション形式:電子制御6速AT(フロアシフト)
ホイール:8J×18
■AZURE
車両形式:ABA-BDC
乗車定員:4名
エンジン形式:L410MT
エンジン種類:V型8気筒OHV ツインインタークーラー ツインターボ
総排気量(cc):6,761
ボアx ストローク(mm):104.1×99.1
最高出力PS/rpm:457/4,100
最大トルク kg・m/rpm:89.2/1,800
圧縮比:7.8:1
エンジンマネージメント:ボッシュ
ミッション形式:電子制御6速AT(フロアシフト)
ホイール:8J×19
参照:ベントレー アルナージ&アズール カタログ(2007年版)
・BENTLEY TRAVEL IN ANOTHER WORLD
・MULLINER FEATURES AND SPECIFICATION GUIDE
「BENTLEY THE JOURNEY SO FAR」及び「ARNAGE AND AZURE COLOUR AND TRIM GUIDE」については【ベントレー アルナージ&アズール '07 Vol.2】へと続く。
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